新潟地方裁判所 昭和25年(行)5号 判決
原告 飯沼正三
被告 新潟県知事
一、主 文
被告が原告に対し別紙目録記載の家屋につき昭和二十四年十二月一日保内村長をして徴税傳令書を交付せしめてなした縣税不動産取得税四万二千五百円の賦課処分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求の原因として、(一)別紙目録記載の家屋はもと原告の亡父行藏の所有であつて、同人は右家屋において旅人宿業を営んでいたのであるが、昭和十一年五月十八日死亡し、原告の兄文二がその家督相続をなして右家屋の所有権を承継した。(二)しこうして文二はその以前から東京都内において時計金属商を営んでおり郷里に引き揚げてくる意思がなかつたので、行藏の遺志に從い、從來父のもとで家業を助けてきた原告に右旅人宿業を継がせるため、同年六月五日原告に右家屋を贈與し、その後昭和二十四年四月二十七日文二所有名義の保存登記をなした上同日右贈與による所有権移轉登記手続を経由したのである。(三)しかるに被告は原告が右登記の日贈與により右不動産の所有権を取得したものとなし昭和二十三年七月七日施行の改正地方税法に基き縣税を賦課するために右昭和二十四年四月二十七日現在の價格を基準として不動産取得税四万二千五百円の徴税傳令書を昭和二十四年十二月一日保内村長をして原告に交付せしめたので、原告は被告に対し同月九日異議の申立をなしたところ、昭和二十五年一月十一日却下され同月十六日その決定書の送達を受けた。(四)しかしながら原告が文二から本件家屋の贈與を受けたのは前記の通り昭和十一年六月五日であるから、右贈與による不動産の取得につき被告がその後施行された右改正地方税法に基き前記のような縣税の賦課処分をなしたのは違法である。よつてその取消を求めるため本訴におよんだのであると述べた。(立証省略)
被告指定代理人は原告の請求棄却の判決を求め、原告主張の(一)および(三)の事実は認める(二)の事実中、文二が原告に本件家屋を贈與し昭和二十四年四月二十七日原告主張の如き所有権保存登記ならびに贈與による所有権移轉登記手続を経由したことは認めるが贈與の日時の点は否認する、そのほかの事実は知らない。文二が原告に本件家屋を贈與したのは原告主張の改正地方税法施行後である昭和二十四年四月二十七日である。仮に右贈與が原告主張の通り昭和十一年六月五日になされたとしても、その贈與による所有権移轉登記手続がなされたのは昭和二十四年四月二十七日であるからそれまでは民法第百七十七條により原告において右所有権の移轉を被告に対抗し得ない筋合である。從つて被告は右改正地方税法に基き昭和二十四年四月二十七日現在の本件家屋の價格を基準として本件縣税の賦課処分をなしたのであるから、右処分には原告主張のような違法の点はないと述べた。(立証省略)
三、理 由
別紙目録記載の家屋がもと原告の亡父行藏の所有であつて、昭和十一年五月十八日同人の死亡により原告の兄文二家督相続をなしてその所有権を承継したこと、その後文二が右家屋を原告に贈與し(ただしその日時の点は除く)昭和二十四年四月二十七日右家屋につき文二所有名義の保存登記ならびに右贈與による所有権移轉登記手続が履践されたこと、被告が右贈與による原告の不動産取得につき原告主張の如く昭和二十三年七月七日施行の改正地方税法に基き縣税を賦課するため、昭和二十四年四月二十七日現在の價格を基準として不動産取得税四万二千五百円の徴税傳令書を昭和二十四年十二月一日保内村長をして原告に交付せしめたこと、原告が同年十二月九日右賦課処分につき被告に対し異議の申立をなしたが昭和二十五年一月十一日却下されて同月十六日その決定書の送達を受けたことはいずれも当事者間に爭がない。
そこで右贈與がなされた日時の点につき案ずるに、証人佐藤ハナ、同重野茂雄の各証言および原告本人尋問の結果ならびに右本人尋問の結果により眞正に成立したものと認め得る甲第一、二号証の各一、二(ただし甲第一号証の一中郵便局の日付印の部分については成立に爭がない)成立に爭ない甲第二号証の三、四、乙第一号証(甲区欄の記載部分)を綜合すれば、原告の兄文二は前記の如く父行藏の死亡により家督相続をなしたのであるがその以前から東京都内に居住して時計貴金属商を営み郷里に引き揚げてくる意思がなかつたので、行藏の遺志に從い家業たる旅人宿業は原告をしてこれを継がしめ、本件家屋その他の遺産は昭和十一年六月五日原告に贈與したのであつて同日原告において本件家屋の所有権を取得したことがうかがわれる。そのほかに右認定をくつがえして、被告主張のように昭和二十四年四月二十七日右贈與がなされた事実を認めるに足る証拠は存しない。つぎに被告は昭和十一年六月五日贈與により本件家屋の所有権が移轉されたとしても原告は昭和二十四年四月二十七日その登記手続を経由したものであるからそれまでは民法第百七十七條により被告に対抗し得ないものであると主張するので案ずるに、租税の賦課処分は国家または地方公共団体が公権力により一方的に納税義務者に対しその義務を負担せしめる行爲であつて、私法上の取引関係とは全くその性質を異にするものであるから、私法上の物権変動の第三者に対する対抗要件を規定した民法第百七十七條はかかる公法上の権利関係に属する租税の賦課処分について適用ないものと解すべきである。從つて被告の右主張は採用できない。しこうして租税の賦課処分は課税要件完成の当時施行されている法令に基きなすべきであつて、不動産取得税の如き随時税については課税原因の発生した時課税要件が完成したものというべきであるから、被告が本件不動産取得税の課税原因たる贈與が昭和十一年六月五日なされたのにかかわらず、昭和二十三年七月七日施行の改正地方税法に基き右登記のなされた昭和二十四年四月二十七日当時の價格を基準として本件縣税の賦課処分をなしたのは違法であるといわねばならない。
よつて原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 山村仁 松永信和 小林信次)
(目録省略)